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リポソーム・シスプラチン製剤 LIPOPLATIN
~小児悪性固形腫瘍患者における安全性・有効性試験結果が報告されました~
 
シスプラチンは白金製剤のひとつです。白金化合物は1840年代に発見されていますが、生物の細胞分裂を抑制することは1965年まで知られることなく、シスプラチンとして精巣癌および卵巣癌治療薬として承認されたのは1978年です。その後1980年代にカルボプラチンが、1990年代にオキサリプラチンが開発されました。日本では、ネダプラチンが塩野義製薬によって開発され、1995年に承認されています。日本で承認されている白金製剤の効能・効果を以下の表にまとめました。


    効 能
シスプラチン 睾丸腫瘍,膀胱癌,腎盂・尿管腫瘍,前立腺癌,卵巣癌,頭頸部癌,非小細胞肺癌,食道癌,子宮頸癌,神経芽細胞腫,胃癌,小細胞肺癌,骨肉腫,胚細胞腫瘍(精巣腫瘍,卵巣腫瘍,性腺外腫瘍),悪性胸膜中皮腫,胆道癌
以下の悪性腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用療法
悪性骨腫瘍,子宮体癌(術後化学療法,転移・再発時化学療法),再発・難治性悪性リンパ腫,小児悪性固形腫瘍(横紋筋肉腫,神経芽腫,肝芽腫その他肝原発悪性腫瘍,髄芽腫等)
カルボプラチン 頭頸部癌,肺小細胞癌,睾丸腫瘍,卵巣癌,子宮頸癌,悪性リンパ腫,非小細胞肺癌,乳癌
以下の悪性腫瘍に対する他の抗悪性腫瘍剤との併用療法
小児悪性固形腫瘍(神経芽腫・網膜芽腫・肝芽腫・中枢神経系胚細胞腫瘍,再発又は難治性のユーイング肉腫ファミリー腫瘍・腎芽腫)
オキサリプラチン 治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌
結腸癌における術後補助化学療法 治癒切除不能な膵癌
胃癌
ネダプラチン 頭頸部癌,肺小細胞癌,肺非小細胞癌,食道癌,膀胱癌,精巣(睾丸)腫瘍,卵巣癌,子宮頸癌
白金化合物の構造
白金製剤の副作用比較:胃腸・栄養代謝障害 白金製剤の副作用比較:腎毒性
 
白金製剤はこれ以上必要ないか?
リポソームは生物の細胞膜と同じ構造をした人工膜から形成される小さな気泡(小胞)です。小胞の外側は疎水性(脂溶性)の性質を、内側は親水性(水溶性)の性質を有する分子で作られています。Lipoplatinはリポソームにシスプラチンを封じ込めた製剤です。Lipoplatinのリポソームは、以下の分子で形成されています。
soy phosphatidyl choline (SPC-3)
cholesterol dipalmitoyl phosphatidyl glycerol (DPPG)
methoxy-polyethylene glycol-distearoyl phosphatidylethanolamine (mPEG 2000-DSPE)
Lipoplatinを構成するシスプラチン:脂質(w/w)比はおよそ1:10です。SPI-77がリポソーム・シスプラチンとして以前に開発されていますが、シスプラチン:脂質(w/w)比はおよそ1:70と脂質比が高かく、臨床試験では期待するシスプラチンの効果を得ることができませんでした。
悪性腫瘍細胞は腫瘍組織形成を促すために組織形成に必要な組織細胞や、組織形成に必要な栄養を補給するため微小環境と呼ばれる特徴的組織を形成します。微小環境には血管も含まれ、悪性腫瘍細胞は血管内皮細胞増殖因子をはじめ様々な蛋白質を過剰に放出し、血管新生と呼ばれる血管形成を促進します。血管新生によって形成される血管では、血管平滑筋が未完成ででこぼこな管腔として形成され、形成された血管内皮細胞間には数百nmの間隙が存在し漏出性が高い血管を特徴とします。Lipoplatinは、血管新生によって形成された血管の内皮細胞間隙から腫瘍組織にシスプラチンを選択的に浸透させるため平均110nmのナノリポソームとして設計されており、悪性腫瘍組織に分布するLipoplatin濃度は、健常な組織に対する分布と比較して10~200倍高いことが示されています。
LipoplatinのリポソームにはmPEG 2000-DSPEが使われ、リポソーム表面の一部を水溶性高分子でPEG化と呼ばれる修飾をしています。PEG化されたLipoplatinの体液中滞在時間は長く、その生体内半減期は60-117時間、およそ5日観に達することが測定されています。従来のシスプラチンの生体内半減期はおよそ6時間です。体外への排泄については、投与3日後までにおよそ40%のLipoplatinが尿中から排泄されます。
また、白金薬剤に発生する薬剤耐性の原因の一つに、悪性腫瘍細胞膜に発現するトランスポーターと呼ばれる取り込みポンプの関与が知られています。Lipoplatinはリポソーム膜外側の疎水性構造によって悪性腫瘍細胞膜と融合し、腫瘍細胞内にシスプラチンを直接放出します。また、リポソームを脂肪として貪食されることも知られています。血管新生血管上皮細胞間隙を通過して腫瘍組織に高度に拡散したLipoplatinが、腫瘍細胞と融合または貪食されることによって、腫瘍細胞内に選択的にシスプラチンを運び込むと説明されています。このようなリポソームの性質を利用したLipoplatinの有用性は、シスプラチン耐性悪性腫瘍細胞を用いたマウス腫瘍細胞移植片実験で証明され、従来の化学療法後に再発した膵癌患者においても、その有効性が示されています。
毒性に関しては、これまでに行われた成人における臨床試験によって、シスプラチンの特徴的腎毒性の発現は認められていません。主たる副作用は、グレード1-2の悪心・嘔吐、骨髄抑制と報告されています。腎毒性の発現が認められず、その他重篤な副作用が現在まで認められないことから、副作用防止のため水分補給や他製剤の前投与などの治療アルファが省かれ、施設滞在期間を短縮化、経済的治療をうけることができます。
Lipoplatinの抗腫瘍作用の特徴は、血管新生阻害作用です。Lipoplatinは、シスプラチンのDNA結合による細胞増殖阻害作用、アポトーシス誘発シグナル伝達活性化による腫瘍細胞死滅に加え、悪性腫瘍細胞による血管新生によって形成された血管内皮細胞でも取り込まれ、血管新生を抑制することが示されています。
まとめ:Lipoplatinは、
1.シスプラチンが発現する腎毒性をはじめとする副作用が軽減されている
2.悪性腫瘍組織に高濃度に分布する
3.化学療法耐性獲得悪性腫瘍、化学療法後の再発・転移悪性腫瘍に奏効する
4.腫瘍形成、増殖を促す腫瘍微小環境内血管新生を阻害する
以下に、これまでの説明をイラストとしました。
文献をお読みになりたい方、先生方、ご遠慮なくリクエスト下さい。
Lipoplatin
Lipoplatinの作用様式
以上、Lipoplatinはゲムシタビンとの併用療法として膵癌に対する治療薬として、27EU諸国、アメリカFDA、トルコFDA、台湾FDA、ブラジルFDA、中国FDA、カナダFDA、オーストラリアFDA等で承認されています。転移性乳癌、胃癌に対する臨床試験も行われています。小児に対する使用報告はありませんでしたが、今年2016年6月に開催されたAmerican Society of Clinical Oncology(ASCO, アメリカ臨床腫瘍学会) Annual Meeting (ASCO 2016、2016年6月3-7日、イリノイ州シカゴ)において、小児悪性固形腫瘍患者におけるLipoplatinの安全性および有効性試験が発表されましたので、速報をまとめました。
Dr. Gulsah Tanyildizらによる
「小児悪性固形腫瘍に対するLipoplatinの効果・安全性検討試験」
Department of Pediatric Oncology, Ankara University Medical School, Ankara, Turkey
【症例】 2014年7月から2015年1月までに登録された小児固形腫瘍患者
年齢:4-15歳性別:男(7人)、女(3人)
再発・転移性固形腫瘍:横紋筋肉腫(3人)、神経芽腫(2人)、骨肉腫(3人)、ユーイング肉腫(1人)、軟骨肉腫(1人)
【投与】 L-platin 125-175 mg /m2(5症例)またはPaxlitaxel 125-175 mg/m2 + L-platin175 mg/m2(5症例)を隔週で2 – 10サイクル。うち1症例はL-platin + リポソームDoxorubicin、2症例はL-platin + Doxorubicinの組み合わせで投与。臨床効果評価のため腎機能検査、血液検査、嘔吐等の副作用記録を行いました。
【結果】L-platin治療による腎機能異常およぼ他の重大な副作用の発生は観察されませんでしたが、グレード1-2と判定された軽度な骨髄抑制と嘔吐の発現が確認されています。
治療開始前のクレアチニン値:0.22 - 0.92 mg/ dl (中央値: 0.47 )
 L-platin + Paxlitaxel投与後:0.38 - 0.82 mg/dl (中央値: 0.55)
現時点、当試験の臨床効果を判定するには至っておりませんが、臨床効果に対して寛容性が認められ、治療開始後2-13ヶ月の間、病期安定または病期進行遅延により、安定した日常生活が期待されています。
N Tacyildiz, G Yavuz, EC Unal, H Dincaslan, F Asarcikli, G Tanyildiz. A new agent, liposomal cisplatin, in the treatment of relapsed or metastatic childhood solid tumors: Toxicity and clinical effectiveness. J Clin Oncol 34, 2016 (suppl; ASC 2016 Annual Meeting Abstr e22006)
 
Lipoplatin (Regulon Inc)
Grigoriou Afxentiou 7, 17455, Alimos, Greece
http://www.regulon.org/joomla30/index.php/en/our-products
 
その他のリポソーム化腫瘍薬
  製剤名(企業名) FDA承認 適応
イリノテカンリポソーム注射剤 Onivyde (Merrimack) 2015年10月 ゲムシタビンを含む治療御に増悪した転移性膵腺がんフルオロウラシルとロイコボリンとの併用投与
ドキソルビシン・リポソーム注射剤 Doxil (Alza)
(日本ではヤンセンファーマ)
2007年5月 化学療法後に進行した卵巣癌または再発卵巣癌、化学療法に対する耐性獲得エイズ関連カポジ肉腫
ビンクリスチン・リポソーム注射剤 Marqibo (Talon ) 2012年8月 フィラデルフィア染色体陰性急性リンパ性白血病
標準治療で2回以上再発経験のある患者、または2種類の異なる治療レジメンによる治療後に増悪した患者
(2016年6月30日掲載)
 
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