「詳細 日本のがん統計」小児がん版を世界に向け発信!
確かで効率の高い小児がん治療開発を目指し、日本の小児がん情報を世界で共有。日本語ページ、勿論、あります。
期待の小児がん固形腫瘍治療レジメン
抗PD1抗体免疫療法
PD1とは
腫瘍免疫応答 腫瘍免疫応答回避
腫瘍細胞が特異的に発現するタンパク質が抗原と認識された場合、この抗原を特異的に認識することができる抗原受容体が、T細胞と呼ぶ免疫細胞に産生されます。抗原受容体を発現し活性化されたT細胞は、抗原を認識し抗原と結合することによって、抗原タンパク質を発現している細胞を攻撃し死滅させます。この生体防御反応を腫瘍免疫応答と言います。

免疫系には、過剰な免疫機能を抑制するための免疫抑制機能が存在することが知られています。PD-L1は、免系抑制系を活性化させることのできる生体内免疫抑制系リガンドの一つです。PD-L1は、免疫抑制性受容体の一つであるPD1受容体と結合し、免疫抑制シグナルを発生、免疫細胞機能を抑制します。この生体反応を腫瘍免疫応答回避と言います。

従って、PD-L1とPD1受容体の結合を阻害することによって、免疫抑制作用を阻止(腫瘍免疫応答回避の抑制)することが可能です。免疫抑制機能を阻害するために抗PD1抗体が作られ、現在、Keytrude(pembrolizumab)、Opdivo(nivolumab)が悪性黒色腫治療薬として承認されています。
 
PD1およびPD-L1は、固形腫瘍でも発現している
免疫抑制系を司る生体内リガンドPD-L1、およびその受容体PD1が、固形腫瘍でも発現していることが報告されています。PD1とPD-L1の同時発現が認められる固形腫瘍症例の予後解析よって、全生存率ではおよそ18倍、無病生存率においてはおよそ8倍のリスクが認められ、死亡率が高いことが示されています(PLoS ONE 8(12): e82870, 2013)。
 
固形腫瘍PD-L1発現率 固形腫瘍PD1発現率
※グラフをクリックすると拡大表示されます ※グラフをクリックすると拡大表示されます
固形腫瘍PD1/PD-L1発現率 表 固形腫瘍PD1/PD-L1発現率
※グラフをクリックすると拡大表示されます ※表をクリックすると拡大表示されます
 
PD1/PD-L1発現は固形腫瘍予後因子であり、治療ターゲットである
PD1/PD-L1発現は全生存期間を短くする PD1/PD-L1発現は無病生存期間を短くする
 
期待される固形腫瘍治療:抗PD1抗体免疫療法
米国NCIのグループによって、抗PD1抗体の横紋筋肉腫治療薬臨床開発への展望が報告されています(Sci. Transl. Med. 6, 237ra67, 2014)。NCIの研究者らは、抗PD1抗体の悪性黒色腫治療における有効率が30%に留まることから、がん発症に拘わる免疫抑制機構を詳細に検討しました。実験には、自然発症マウス横紋筋肉腫細胞を用いたマウスモデルを用い、マウスモデルで得られた結果をヒト横紋筋肉腫、ユーイング肉腫症例を含む患者血清成分解析で同定、さらに臨床予後を解析し、臨床開発の必然性を示しています。

研究に用いたマウスモデル(図:マウス横紋筋肉腫モデル )は、横紋筋肉腫細胞を腓腹筋に注入後、25日以内に100%のマウスは死亡します。このマウス横紋筋肉腫モデルでは、PD-L1およびPD1がで発現すること、マウス横紋筋肉腫による死亡は、横紋筋肉腫細胞注入と同時に抗PD1抗体を投与することによって完全に阻止されることから、マウス横紋筋肉腫モデルにおける横紋筋肉腫発症に腫瘍免疫回避機構が関与します。しかし、横紋筋肉腫が発症した後に遅れて抗PD1抗体を投与した場合、マウスの延命は観察されるますが、結果、死亡を免れないことから、マウス横紋筋肉腫モデルにおける腫瘍発症および進行には、PD-L1およびPD1受容体を介する免疫抑制系以外の免疫機構の存在が考えられます(図:マウス横紋筋肉腫モデル抗PD1抗体 )。

マウス横紋筋肉腫モデルでは、腫瘍部位に骨髄由来の細胞が集積します。NCI研究者らは、骨髄由来細胞は横紋筋肉腫細胞が放出するケモカインと呼ぶタンパク質によって遊走能が亢進され、腫瘍部位に集積すると同時に、腫瘍免疫応答に関与、腫瘍細胞を死滅させることのできる免疫細胞(CD8陽性T細胞)の活性・増殖を抑制することを示しました(図:免疫細胞抑制 )。この結果は、ケモカインの放出阻害によって、腫瘍部位の免疫細胞(T細胞)数が増えるエビデンスで後押しされています。

固形腫瘍52症例(平均年齢18歳(5歳ー34歳)、骨肉腫6症例、横紋筋肉腫14症例、ユーイング肉腫20症例、線維形成性小細胞腫瘍8症例、滑膜肉腫3症例、悪性間葉腫1症例)の血清中ケモカイン(CXCR8)濃度測定によって、血清中ケモカインは予後因子でもあることが示唆され、血清中ケモカイン濃度が高い症例では生存期間が短いことが証明されました。すなわち、血清中ケモカイン濃度が健常値であった症例の生存期間が47.2ヶ月であったのに対し、 血清中ケモカイン濃度が高値を示した症例の生存期間が12.3ヶ月(図:血清中ケモカイン濃度と全生存期間)、生存症例の血清中ケモカイン濃度は80.5pg/mlであるのに対し、死亡症例の血清中ケモカイン濃度は222.8pg/mlと高いことが示されました(図:血清中ケモカイン濃度と予後)。

NCI研究者らは、抗PD1抗体による固形腫瘍免疫治療レジメンとして、まずケモカイン放出を阻害、すなわち血清中ケモカイン値を下げることによって、骨髄由来細胞の腫瘍部位への遊走と免疫細胞の抑制を阻害、遅れて抗PD1抗体を投与することを提唱しています。このレジメンの妥当性は、ケモカイン受容体を持たないマウス横紋筋肉腫モデルでは、横紋筋肉腫細胞注入から遅れて抗PD1抗体を投与することによって、マウス横紋筋肉腫モデルの生存率が大きく改善されるエビデンスで後押ししています(表:ケモカイン発現の有無と抗PD1抗体による生存期間比較)。

抗PD1抗体医薬品は悪性黒色腫を適応症に認可された抗体製剤が既に存在すること、ケモカイン抑制には既存の抗炎症薬で代用できる可能性があることから、NCI研究者らが提唱する新規小児固形腫瘍免疫療法レジメンの早期臨床試験着手を期待します。

図:マウス横紋筋肉腫モデル 図:マウス横紋筋肉腫モデル抗PD1抗体
 
 
  図:免疫細胞抑制   図:腫瘍微小環境形成   図:腫瘍微小環境形成抑制
※グラフをクリックすると拡大表示されます
 
図:血清中ケモカイン濃度と全生存期間 図:血清中ケモカイン濃度と予後
 
表:ケモカイン発現の有無と抗PD1抗体による生存期間比較
 
 
 文献:
1.骨髄由来免疫抑制細胞および抗PD1抗体免疫療法
S. L. Highfill, Y. Cui, A. J. Giles, J. P. Smith, H. Zhang, E. Morse, R. N. Kaplan, C. L. Mackall, Disruption of CXCR2-Mediated MDSC Tumor Trafficking Enhances Anti-PD1 Efficacy. Sci. Transl. Med. 6, 237ra67 (2014).

2.固形腫瘍症例PD-L1およびPD1発現率
J. R. Kim, Y. J. Moon, K. S. Kwon, J. S. Bae, S Wagle, K. M. Kim, H. S. Park, H Lee, W. S. Moon, M. J. Chung, M. J. Kang, K. Y. Jang, Tumor Infiltrating PD1-Positive Lymphocytes and the Expression of PD-L1 Predict Poor Prognosis of Soft Tissue Sarcomas. PLoS ONE 8(12): e82870. doi:10.1371/journal.pone.0082870 (2013).
3.マンガでわかる免疫学 4.新しい免疫学

 著者:河本 宏 先生
Kindle版 ¥2,200
単行本   ¥2,376
出版日:2014/6/19

著者:審良 静男 先生, 黒崎 知博 先生
新書 – 2014/12/19(出版日)
¥929
 
Copyright 2010-2019 HakaseTaro, Inc. All rights reserved.
サイトポリシー